漆芸の沼
こまったはなし
本物の金継とイミテーション金継ぎ
博多漆芸研究所の金継は
天然うるし100%、自然素材のみを使う、
「自然派金継」です
ひとえに「金継」と言っても、
使用される素材や技術は様々です
うるしに似せた合成塗料や
合成接着剤、合成樹脂を使ってインスタントに
仕上げる方法もよく見掛けます
これを一律に「金継」と呼んでしまうと
誤解を招きます
最近、一部で
化学物質を使うイミテーション金継を
「簡易金継」と呼ぶようです
区別が進むのは歓迎ですが、
簡易金継の印象低下を察知した業者さんが
さっそく「新金継ぎ」「現代金継ぎ」など、
新しい名前をつけています
また、
簡易金継を単に「金継ぎ」と呼んでいる場合、
誤解を招くおそれがあります
このあたり、業界団体が無いので
統一ルールはありません
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食品衛生法を過信しないで
安全性を確かめたい側である
消費者や漆金継ぎの作家は、
ほとんどが個人です
化成品の生産者、販売業者などの
企業がおこなうロビー活動や
情報発信のパワーにはかないません
それから、
食品衛生法のサイトを見ても
我々が知りたい核心については
どこにも書かれていません
食品衛生法は
相当に悪質な製品が対象であり、
明らかな健康被害が出ない
グレーゾーンにまで
手が回らないのです
また、日々増殖する化学物質の
進化に追い付いていません
食品衛生法で問われる
塗料の安全性は、
「溶出試験」といって
硬化した塗装部分を
指定された液体に
決まった時間浸け置きして、
鉛などの問題物質が法定量以上に
溶け出さないかどうかを
チェックするだけの
目の粗いザルです
よほど大量に扱う現場でなければ
制作時に揮発する危険物質も
自己責任です
そして、
カシュー系塗料やエポキシパテが
経年劣化でどのように変化するは
追っていません
皆さんが金継ぎセットや教室を選ぶ際は、
「天然漆」を使っているか?
を判断基準にするとよいと思います
天然漆を使った金継ぎを
更に進化させたのが
自然派金継ぎです
化学物質過敏症の方は
自然派金継ぎをおすすめします
つまり、
どこまでが自分の許容度か?
ということです
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学ぶことで危機回避
ところで、
間違った認識が広がったことで、
我々が困ることがあります
金継依頼の際、
「3~4ヶ月ほどお時間をいただきますね」
と言うと、ご依頼主さんから
「どうしてそんなに時間がかかるのか?」
「もっと早くできないの?」
と言われることがしばしばあります
天然漆・自然素材の金継は
急いでも3ヶ月必要と、
工程などを説明すると
いちおう納得されるのですが
「地元の金継師さんは
1~2週間で金継してくれるのに」
と言われ、悲しい気持ちになったことも
地元とは、某有名やきもの産地です
化学物質を使う金継は
早いし安いでしょう
早い、安いのかわりに
払う代償が何か?
承知したうえで
選ぶのは自由です
しかし、残念ながら
知識の無いクライアントに対して
「化学物質を使っています」
「安全性に問題がある」
「環境汚染につながる可能性がある」
と注意喚起してくれる確率は低いでしょう
こちらが学ぶことで
危機回避するしかないのです
食品添加物や洗剤などの日用品と
同じですね
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説明責任
化学物質の安全性に
疑問を持たない方は
たくさんいらっしゃいます
金継師さんだけでなく、
金継教室・講座の中にも
化学物質を使う先生がいます
「金継を習っているけれど、様子が変」
だと相談を受けます
講座で購入した金継セットを拝見すると
有機溶剤とカシュー系塗料
中には、
「伝統の金継ぎ」と謳って受講生を
募集しているケースもあります
このようなやり方は
本物の金継を期待する人を
欺くことになります
この方も、
自分の思う金継と「違う」と感じて
相談に来られたのでした
同様の相談は他にも数件あり
みなさん
「本物の伝統技法でないと知っていたら
受講しなかった」と、言います
更に気になることは
講座受講時や道具セット販売に際して、
「施工時に換気する」
「火気厳禁」(一部可燃性材料について)
「作品に食品を直接入れない」
などの安全性に関する説明が不十分なこと
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何がトレードオフになっているのか?
化学物質を使う方は
「漆はかぶれて危険」
「漆は高価」
「漆は時間がかかる」と言います
<危険性>
〇うるしかぶれはなおります
後遺症もありません
●化学塗料も付着したまま放置すればかぶれます
●簡易金継の必須アイテム
「有機溶剤(うすめ液)」「エポキシパテ」
こそ、人体や環境に有害です
<価格>
単体で見ればカシュー系塗料のほうが安価です
しかし、添加剤や溶剤などは身の回りの品で
代用できず、それらの購入、廃棄コストが
かかります
〇本漆金継では、身の回りにある
水、油、小麦粉などを使い、
生活用品と同様に廃棄できます
●簡易金継のセットに入っている
うすめ液と書かれたボトルの中身は
有機溶剤、シンナーと呼ばれるもので
トルエン、キシレンなどがブレンドされています。
トルエンやキシレンなどを下水に流してはいけません
<時間>
金継ぎで手を動かす時間は
*器と寄り添った思い出をふりかえる追憶の時間
*日常を忘れて無心になる時間
「時間」に
価値を与えるのも、奪うのもあなたです
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BPAと海洋プラスチックゴミ
簡易金継で使われる主剤・副剤混合型の
エポキシパテ、エポキシ系接着剤
欠けを埋めたり、割れを接着するのに
使われます
21世紀になったばかりの頃
新聞でBPA(ビスフェノールA)という
物質の記事を読みました
人間の生殖に悪影響を与えているかも
しれない
という内容でした
BPAは、
エポキシの硬化剤です
当時は「疑い」でしたが、
2020年現在、「一定以上の量で影響がある」
とされています
内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)で、
生殖機能や神経系への影響が注視され、
日本の食品衛生法でも食品容器に使用する場合は
TDI(耐容一日摂取量)が決められています
しかし、エポキシ樹脂が
食器への使用が法で禁止されている
わけではありません
EUでは、新たな研究成果が出るたびに
TDI(耐容一日摂取量)の上限が引き下げられてゆき、
カナダでは、原料にBPAを使う
ポリカーボネート製の哺乳瓶を禁止しました
日本はアメリカ同様、経済優先で
欧州とは異なる道を歩いています
エポキシ支持派の主張は
「硬化したエポキシは安全」です
ところが近年、
海洋プラスチックが問題になっています
廃棄されたエポキシが海洋を漂流すると
分解されて、有害物質に変化することが
わかっています
日本の沿岸は、世界の中でも
海洋プラスチックが多く漂着することで
有名なホットスポットです
海洋プラスチックと
温暖化による海水温上昇は
最悪の組み合わせです
海洋、漁業への影響はこれから本格化するのでは
ないでしょうか?
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化学物質について、
「弱い人が影響を受けるだけで自分は大丈夫」
「安くて便利なほうがいい」
と言っていた人は、
自分にブーメランするとは
思っていなかったはずです
レジ袋やストローを使わないように
頑張っているわたしたち、
金継ぎでも同じようにしませんか