漆芸の沼
合成うるしを使った金継ぎの有害性
当ブログでもふれてきた合成うるしに
新しい動きがありました
合成うるしメーカーのひとつである
櫻井釣漁具のツイートです
セメダイン社のように
“安全性の理由から”
と添えていただけると、
より正確に情報が伝わると思います
ともあれ、
“修理箇所に口を付けない使い方をおすすめ”
ということは
口を付けると何らかの影響があると認めています
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2016年に出版された
『金繕いの本』白鳥由加利著
ここに掲載された
従来の櫻井釣漁具の見解は以下のとおり
「無害」との主張でした
漆器製造業界では“安全性の理由から”
直接食品が触れる器や箸のような用途に
合成うるしを使用することはありませんでしたので
この記述に衝撃を受けた関係者は多いのです
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合成うるしとは何でしょうか?
うるしの名がついていますが、
漆とは別ものです
「カシューうるし」
「新うるし」
「本うるし」
など、非常に紛らわしい商品名で売られています
一括して「カシュー系うるし」とも呼ばれます
カシューナッツと言う勾玉型のナッツ
その殻からカシューオイルが採れます
カシューオイルはねばねばなので
薄める必要がありますが
うすめ液に使われるのは
カシューシンナーという溶剤で
「トルエン」「キシレン」などのブレンドです
それらは、有機溶剤と呼ばれ、石油が原料で
人体への影響が非常に強い溶剤です
つまり、合成うるしとは
石油をもとに作られた
合成塗料、合成樹脂の一種です
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合成うるしを金継ぎに使う人は多く
有名な金継ぎ師さんの中にもいらっしゃいます
一般的には
「簡易金継ぎ」という呼び方のほうが知られて
いるかもしれませんね
書店に並ぶ金継ぎ技法書の大半は
合成うるしを使ったもの
合成うるしを使った金継ぎキットも
当たり前のように売られています
残念ながら、
そういった書籍、セットの説明書、講習で
有機溶剤に対する注意喚起などが
じゅうぶんに行われていないケースが多発しています
前掲『金繕いの本』の一文が
そのような開き直りのよりどころとなった
可能性は否定できません
その大本山たる櫻井釣漁具が、
見解を修正したのであれば
今後の状況が改善するかもしれません
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合成うるし系金継ぎ教室の受講生さんから
講座で販売された金継ぎセットを
お譲りいただいたものがあります
いただいてから3年以上経ちますが
それが入っている引き出しを開けるたびに
有機溶剤特有のにおいがするので
吸わないよう息を止めています
このようなセットを持っている人たちは
自分のように有機溶剤の危険性を
正しく理解しているのだろうか?
廃棄方法を守っているのだろうか?
と考えると暗い気持ちになります
容器には「うすめ液」
などと書かれたシールが貼られているだけで
危険物である旨の警告などは一切ありません
本来は
安全データシートに記載されているように
様々な注意を喚起するための表示義務があります
正しく表示すると、禍々しさが伝わってしまうため
あえて表示していないのかもしれません
因みに、このセットの持ち主さんに伺っても
保管、使用、廃棄の説明は一切無く、
危険物であることも知らなかったそうです
市販される道具、材料、サービスには、
金継ぎを楽しむみなさん一人一人の意見や消費行動が
反映されるものです
表示や内容をご自身の感覚で判断し
安心安全なものを求めるメッセージを発信し続ければ、
紛らわしい商品や危険な材料
無責任な業者が駆逐されてゆくのだと思います
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ところで、カシュー漆は
長崎国旗事件に端を発した
中国との国交断絶からの漆輸入停止により
困窮した漆業界が代用品として
採り入れたものです
かつては重箱、菓子鉢、お盆などに塗られましたが
食器には適さないため、現在は
仏壇やピアノの塗装に活用されています
以前は修理依頼でカシュー塗装品が
持ち込まれましたが
研いでいると吐き気や頭痛がするので
現在はご依頼をお断りしています
余談ですが、
メタンガスの発生源として問題視されている
牛のゲップ
飼料にカシューナッツの殻を混ぜると
ゲップが大幅に減るのだそうです
NewsPicks記事
この飼料を作っているのは
石油元売りの出光興産だというので驚きました
世の中の変化を肌身で感じる今日この頃です