惟喬親王のはなし②

2021年11月12日 オフ 投稿者: hakatashitsugei


←前回『惟喬親王のはなし①』

パート②では、
惟喬親王の
「木地師の神様」
という側面に光を当ててゆきます




【東近江の惟喬親王伝承】

惟喬親王が出家し、都を出た後について
東近江の小椋谷に伝わるお話です




~小椋谷の惟喬親王伝承~

※小椋谷:
  滋賀県東近江市、奥永源寺地区の
  君ヶ畑、蛭谷、箕川、政所、黄和田、九居瀬の6町

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惟喬親王は小椋に隠棲し、
出家してお経をあげる生活をされて
いましたが
ある日不思議な夢を見ます

山頂の大池から巨竜が舞い上がり
親王を襲いました

思わず、お経の巻物から手を離すと
くるくる回って巨竜の顔面に当たり
竜が親王を呑み込もうとしました

親王が
「仏の功力とともに呑むがよい!」
と言うと、竜はぐるりと目を回して
池に沈みました

そのとき水面で回る渦巻きの中心に
樫の実の袴がくるくる回っていたので
拾って眺めていたとき、目が覚めます

・・・
こうして、
木の器の作り方を思いついた親王は
轆轤をつくり、村人たちに
挽きものの作り方を伝授しました

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樫の実の袴
たしかにお椀に見えますね!

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【木地師とは】

木工には
指物、刳物、挽物、組物
などがあります


そのうちの挽物
漆器のもとになる木の器を
轆轤(ろくろ)という機械で作る
職人さんのことを
木地師とか轆轤師と言います


椀、こけし、家具の部品など
材を削って回転体を作ります


近世に旋盤が導入される前は
下図のような方法で行われていました


粗削りしておいた木地を轆轤にセットし
二人一組となり、
一人がロープを引いて軸を回転させ
もう一人が木に刃物を当てて削ります

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材木を求めて山奥へ分け入り、小屋掛けして
木を伐り木地を挽きながら
山から山への移動生活です



民族文化映像研究所が制作した
『奥会津の木地師』という
再現映画に詳しく記録されています
DVDが販売されています


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【木地屋文書の世界】


木地師が越境移動する際

*通行の自由
*山の八合目より上に生える木の伐採

のような、常人には許されないはずの特権が
保証されていました
これは、「木地屋文書」と呼ばれる書類を
持っていたからです


文書の内容は
惟喬親王の随身の末裔であるという由緒
天皇や権力者が特権を与えた証拠の綸旨
などでした



「鋳物師文書」と言って
鍋、釜、梵鐘などの鋳物を作る職人にも
同様の文書の存在が知られていますが
木地師文書も鋳物師文書も
創作部分が認められるため
研究者の間では「偽文書」とされます


興味深いことに、このような、
権威ある人との結びつきを根拠に
通行の自由を得る由緒書きは
中国の山岳民族ヤオ族の『評皇券牒』
とよく似ているそうです


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木地師を統率する組織


その木地屋文書の発行元が
“公文所”と呼ばれる木地師統括組織です

さきほどご紹介した
小椋谷の惟喬親王伝承をつたえたのは


◆君ヶ畑の大皇器地祖神社と金龍寺高松御所
◆蛭谷の筒井神社と永源寺歸雲庵

ここに氏子登録すると
文書(パスポート)を発行してもらえました

木を求めて移住する者も多かったのですが
小椋谷からエージェントが巡行して
初穂料(寄付金/会費みたいなもの)を
集めていました

その巡行ツアーのことを
君ヶ畑では氏子狩(うじこがり)
蛭谷では氏子駈(うじこがけ)
と呼ばれ、
上述のようなろくろで作る椀、、盆、杯から
膳、杓子、玩具、農具など様々な木工品の
作り手が対象に含まれました


木地師特権は江戸後期まで続きましたが
明治政府が定住政策を行ったことから
役割が希薄になり、収入源を失った二社は
没落します


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【蛭谷の筒井神社と木地師資料館】

集落が見下ろせる小高い丘にお社が鎮座

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筒井神社の神職は近世まで
惟喬親王の家臣、藤原実秀をルーツとする
大岩氏がつとめたそうです

大岩氏を名乗る前は
小椋氏と名乗りました
それで小椋谷というのですね


境内には、木地師資料館が整備され
木地屋文書やさまざまな古文書
全国各地の木地師さんから寄贈された
作品などが並びます

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小椋さんとおっしゃる方(!)
が管理されていて
資料の説明もしていただけます

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氏子駈帳と呼ばれる名簿
当時の木地師を網羅した貴重な資料です

筒井神社系の「氏子駈」は
西日本が多かったそうです

君ヶ畑の「氏子狩」は東日本中心で
棲み分けがあったのですね

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氏子の居住地域は九州まで
及んでいたそうです!

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こちらは珍しい手挽きろくろ

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椀木地関係資料以外に
東北のこけし職人さんが寄贈された
作品も見事でした


遠刈田、土湯、鳴子などの伝統の諸系統が
揃っており、マニア垂涎なのだそうです


こけしも、お椀と同じく
木地を回転させて回転体を削り出す
「轆轤(ろくろ)」の技術で
蛭谷、君ヶ畑から技術が伝播したのだと
教えていただきました

釈超空(折口信夫)さんの俳句と
手引きろくろの絵があしらわれた
手ぬぐいが販売されていました
うれしいですね✨


木地師名鑑などの希少な本も販売
されていましたよ


山の中で自動車でしか行けない場所ですが
行ってよかったです
もう一度行きたいとすら思います


※訪問される際は
事前予約が必要ですので、お気をつけください


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【蛭谷の木地師さん】

ところで、
蛭谷集落は過疎化が進み、筒井神社周辺も
住んでいる家は数軒になってしまいました



しかし近年、
北野清治さんとおっしゃる方が木地師を
始められ、明るい話題となっています





ご子息の北野宏和さん
山中の挽物轆轤技術研修所で
ろくろ技術を学んでこられたそうです

小椋谷にろくろの音が元気に響くのは
惟喬親王ファンにとって希望の光です

北野さんの工房では、
作品の展示販売やろくろ体験もされていますが
お二人でお仕事をしながらですので
事前連絡をされたほうがよいと思います


木工きたの(筒井ろくろ)
東近江市蛭谷町193
090-6558-7548

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さて、次は
惟喬親王伝承の広がり
そして、
木地神から漆塗の神へと変容を遂げた
背景に迫ってみましょう



       惟喬親王のはなし③