漆芸の沼

簡易金継について考える



化学物質を使う金継と自然派金継


博多漆芸研究所の金継は
天然うるし100%、自然素材のみを使う、
「自然派金継」です


ひとえに「金継」と言っても、
使用される素材や技術は様々です


うるしに似せた合成塗料や
化学物質の接着剤、
有機溶剤を使ってインスタントに
仕上げる方法もよく見掛けます


これを一律に「金継」と呼んでしまうと
誤解を招きます


最近、化学物質を使うものを
「簡易金継」と呼ぶようです

区別が進み、専門知識がない方にも
わかりやすくなるよう願っています


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“自己防衛”


とは言え、
今のところ間違った認識が定着しているので
困ることがあります


金継依頼された時、
「3~4ヶ月ほどお時間をいただきますね」
と言ったところ、依頼主さんから
「もっと早くできないの?」と


本漆を使う自然派金継は
最低3ヶ月必要なことを説明し、
いちおう納得されたのですが


「地元の金継師さんは
1~2週間で金継してくれる」
のだそうです


有名焼物産地の話です


化学物質を使う金継は
早いし安いです


そして、知識の無い依頼主に対して
「うちは化学物質を使っています」
と、わざわざ言いませんね


となると、
依頼する側が勉強するしかないのでしょう


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化学物質を使う伝統技法とは?


金継師さんだけでなく、
金継教室・講座の中にも
化学物質を使う先生がいます


「金継を習っているけれど、様子が変」
ということで、相談を受けました


講座で販売されている金継セットを見ると
有機溶剤および、カシュー系と思しき塗料
明らかに化学物質金継です


講座の広告では
「伝統」を謳って受講生を募集しています


このようなやり方は
本来の金継を期待して受講する人を
裏切ることになります


この方も、
想像したものと「違う」と感じ
相談に来られたのでした


同講座出身の方は、
他にも数名お会いしました


「伝統的なやり方でないと知っていたら受講しなかった」
と、口をそろえておっしゃいます


「おかしい」と思う人が少数派であるかぎり、
やったもん勝ちです


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早い・安い・簡単の代償


化学物質の優位性を主張する方は
 「漆はかぶれるから危険」
 「漆は高価」
 「漆は時間がかかる」
と言います


まず、
化学塗料も、付着したまま放置すればかぶれます


塗料の主成分が
カシューなどの植物性原料だとしても
それに混ぜるうすめ液は人体に有害です


「うすめ液」は別名シンナー
有機溶剤でできています


それから、
トータルで考えたとき
漆のほうが高価なのかは微妙なところです


本漆金継では、身の回りにある
水、サラダ油、小麦粉などを使うので、
材料費は意外とかからず
不要になったときの処理にも困りません


化学物質を使うと
溶剤や添加剤などが必要です


気になるのは
講座受講時や道具セット販売に際して、
成分表示や成分説明は皆無で
 「施工時に換気する」
 「火気厳禁」(一部可燃性材料について)
 「作品に食品を直接入れない」
などの安全性に関する説明が不十分なこと


ちなみに有期溶剤の
トルエンやキシレンなどは、
下水に流してはいけません


と言いつつも
処分に困った挙句、
家庭ごみと一緒に出してしまう人も
いるのが現実です


最後に
「時間がかかる」
これは降参です


本漆を使う自然派金継は
どんなに急いでも2ヶ月半はかかります

工程や季節によって、
漆の硬化が落ち着くまで
7~10日の間隔が必要なのです


ただし、
そんなに急いで金継をする必要があるのか?
考えてみてください


実際、当方へ仕事で金継を依頼される方の中で
納期を急ぐ方は1割以下の印象です


仕事でなく、趣味ならばなおさら、
自然が持つ時間軸にまかせて
“ゆっくり“育てる”
それが本漆を使った自然派金継の
楽しみ方です


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エポキシパテ


化学物質金継で
欠けを埋める時に使われることがある
エポキシパテ(エポキシ樹脂)
※以下エポキシと表記


エポキシは、
日本で食器への使用が禁止されているわけではありません


しかし、
エポキシの硬化剤に使用されるのは、
BPA (ビスフェノールA)


内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)で、
生殖機能や神経系への影響が注視され、
日本の食品衛生法でも食品容器への使用について
TDI(一日に摂取しても問題無いとする量)が
決められています


BPAの人体への影響


21世紀に入った頃、
エポキシの人体への影響は「疑い」でしたが
2020年現在、「量が一定以上だと影響がある」
とされ、
EUでは、新たな研究成果が出るたびに
使用条件が厳しくなっています


カナダでは、哺乳瓶の原料にBPAを使うことを
禁止しました
乳幼児のほうが影響を受けやすいからです


近年問題になっている海洋プラスチックに、
BPAが混入していることが危惧されています


こちら(インターナショナルペレットウォッチ)でわかるとおり、
日本は世界有数の海洋プラスチック漂着地です


発展途上国へ輸出した資源ゴミが
当地で海洋流出し、
マイクロプラスチックとなり
海流に乗って
日本近海へブーメランするのです


金継を習う方、
10年前はほどんど中高年の方でした


現在は、構成比が大きく変わり、
30~40代の女性が中心で
お子さんをお持ちの方も
いらっしゃいます


食器のように
身体に直接ふれるものにエポキシを使うことは
100年後も許されるのだろうか?


1934年まで
おしろいの原料に鉛が使われていました
86年前です

BPAが我々に与える影響は
鉛よりももっと見えにくいのです


想像してみましょう