漆芸の沼

九州のうるし2 福島刃物製作所 2019/10/09

最近、博多漆芸研究所に
商品開発の相談に来られる方が
増えつつあります

福島刃物製作所の福嶋さんも
そのお一人です

なんと、熊本県の八代市から!
距離はおおよそ160km

交通費だけで往復1万円近くになります

福島刃物地図

今回のご縁は、
福嶋さんから1本の電話をいただいたことが始まりです

“自社で製作している包丁の柄に漆を塗りたい ”

偶然ですが、昨年
包丁の柄を塗る仕事をしたばかりだったので、

“何らかのお役に立てると思います”

とお引き受けしたのでした。

7月上旬に初めてお会いしたとき、
がっしりした体格で溶接焼けした福嶋さんに
圧倒されました

福嶋さんは、自作の包丁の柄を並べ、
どのような商品にしたいか、を熱く語ります。

去年我々が製作した見本をお見せすると、
ちょっと派手すぎるということでした(^^;

 

変わり塗りサンプル

 

海外コレクター向けだったからな~

福嶋さんの包丁は
実用していただけるもの
を目指してらっしゃるとのこと

思い描くイメージを伺いながら
おおよその工程を組み立てます

あとはやってみて、目で見て、手で触れて
それから考えよう
ということに

そうと決まったら、
時間を惜しむように
全速力で手を動かす福嶋さん

焦らずに
ていねいに

と、ブレーキかけながらの講習です

カブレが心配ですし、
すり漆はちょっと気を抜くと
拭きムラが残ります

“ あれー、
しっかり拭いたつもりやったけど

いつもの仕事とは違うテンションに
戸惑う福嶋さんでした

2回目の講習は、その4日後

朝10時に始まるクラスでしたが、
9時半には既に教室入りされていました

“いっちょん遠か人が
いっちょん早う来んしゃぁけんね~”

とは笑ってはみたものの、
心の中では驚いていました

8歳年上の福嶋さんのほうが、
自分よりずっと気持ちが若い
プチ敗北感

前回すり漆をした作品を風呂から出して検分します

福嶋さんの頭の中にイメージがあるようなので、
色味や艶などの感想を伺います

“ 白い木地と杢目の色のコントラストが
欲しい ”

とのこと

しかし、天然漆では不可能なこともあります

化学塗料は絶対に使わない
というのはお互いの共通認識です

理由を添えて、難しいと伝えましたが、
何とか実現する方法は無いかと
食い下がる福嶋さんでした

元高校球児でホークスの監督を勤めた
秋山幸二さんの先輩だったそうで、
スポ根の人です!

為せば成る
という信念を感じます
が、
この時ばかりは困ってしまいました

 

野球イメージ

 

“ どうしてもできません ”

しょんぼりする福嶋さんを見て
悲しくなりましたが、
漆は硬化後、時間が経ってから色が明るくなるので
とにかく様子を見ようということで
この日はおさまりました

3回目の講習は、その4日後

この日は席につくやいなや
カバンの中からじゃらじゃらと何かを出し
机の上に並べました

“復習がてら、うちでやってみました”

“ええっ?! ”

研究所には、鹿児島や山口市から通われている方も
いらっしゃいますが、
福嶋さんがすごいのは
その熱意!

中3日の間隔で八代から福岡市へ通い、
通常の仕事をこなしながらです

“この前持って帰った柄を家の者に見せたら
すごくいいと言われました ”

漆だけが持つしっとりした艶
深い色合い
手になじむ感触

ご家族の皆様も喜んで下さったとのこと

“良かったですね!
遠いところ通われた甲斐がありましたね! ”

福嶋さんの笑顔は輝いていました

この日は明るい雰囲気で
すり漆を重ね、
口金(角巻)の部分を塗りました

 

福島刃物

 

福嶋さんの情熱と笑顔に魅せられた我々

自宅でYoutubeを見ていたとき、ふと
福嶋さんの動画を検索してみようということに

すると・・・
「鍛造ステンレス三ツ又鍬」という動画が
見つかりました

金属音と熱の中で仕事をされる福嶋さんを見て
心動かされます

さて、いよいよ完成品ができあがると、
実際に刃を装着した試作品を見せてくださいました

講師一同、
一緒に受講されていた皆さん

「すごい!」
「妖しく美しい!」
「ヤバい!」
「かっこいい!」
「欲しい!」
「いくらですか?」

驚きと感動に包まれます

 

福島刃物包丁

 

その次の受講時

“ 先生、お世話になったお礼です ”

手渡されたのは箱に入れられた件の包丁です!!

本当に嬉しかった!
感謝感激しながらありがたく頂戴しました
が、
あの動画を見た後で
使うのは畏れ多い気がして一旦は仕舞いました

ところが、
しばらくたったある日

半年前に購入した
チタン製包丁(\5000ぐらい)
の切れ味に不満が募り、
小ネギを切るのが億劫になった瞬間

“ そうだ!福嶋さんの包丁を使ってみよう ”
となったのであります

 

包丁アップ

 

なんと、名前入り!
息子さんが彫って下さったそうです
ありがとうございます!!

お恥ずかしいことに、
今までロクな包丁を使ったことがなく、
先のチタン包丁はかなり思い切った買い物でした

最初は抜群に切れて
トマトもサクサクじゃぁ~!
と、絶好調だったのですが
しばらく経つと・・・
シャープナーで研いでも3日ともたずに
切れ味が落ちる

さて、
福島刃物製作所謹製の包丁です

 

大葉を切る包丁

最初は大葉を切ってみたのですが、
刃の重みで「ストン!」
と切れる

力を入れなくても
ストン♪
ストン♪
ストトトトン♪

今まで変な力を入れて切るクセがついていたので
妙な気分です

とにかく、薬味を切るのがめっちゃ楽しい!

そして
実際に使用してみて、とても驚いたことがあります

すべらない

丁寧にすり漆を重ねた柄はなめらかですが
握ると手に吸い付いてきます

このラメっぽく塗ってあるのが福嶋さんのこだわり

福嶋さん、
7月の上旬から8月中旬で、
10回も受講されています

当初は、一定レベルのものができたら
おやめになるのだろう
と思っていました

しかし、ある日
“先生、なんだかとても楽しくなってきました!”
“もっといろいろな塗りにもチャレンジしてみたい”

福嶋さんの目はキラキラと輝いていました
そして、今も輝いています

おわりに

福島刃物のブログというものを見つけ
仕事の合間に読ませていただきました

実直な福嶋さんの人柄が伝わってきました

何より、
福嶋さんの物を作る覚悟を
自分達は見習うべきだと、痛切に感じます

お母さまが亡くなられたときの回想から
一部抜粋です

 

 

小学校のとき音楽の本に載っていた「村のかじや」という歌も、すでに文部省唱歌からなくなりました

全国のかじやの数も年々減少の一途をたどると言われています

俗に言われる3Kの職業でもあり、後継者不足の煽(あお)りもあるようです

また、海外からの安価な製品の輸入により値段では到底太刀打ちできない、いわゆる価格破壊もこの業界でも見られます

 

ただ、そんな状況のなかでも職人として思うこと

それは、自分の腕と目とカンによって、よい刃物を造ることです

 

真夏のうだるような暑さの中、1000度の火床を前にして、吹き出る汗をぬぐう暇もなく一つの品物を造り上げる

そこには職人としての魂が込められています

そして、その品物が出来上がるのを待っている人がいるからには、立派な品物を、一日でも早く造ってやらねばなりません

母が死んだとき、33歳だった私

鍛冶屋の仕事をし始めて15年

福島刃物三代目、かじや職人としての腕前はまだまだだったと思います。

しかし、ほかのどんな鍛冶屋にも負けたくないと思っていました

私が造る品物を待っているひと、私の刃物を必要とする問屋・お店がある限り、魂を込めて、日本一を目指して造り続けようと思っていました

抜粋元 https://ameblo.jp/fukushima-hmn/entry-10804446265.html

 

 

 

熊本県伝統工芸品指定
という肩書をお持ちでも
決して立ち止まることなく
より良いものづくりに励む福嶋さん

いつか福島刃物製作所HPのネット通販
カッコいい包丁が並ぶ日を楽しみにしています!

そのときは、
漆塗りの柄の包丁を
母や妹に贈りたいと思います!

 

※このブログは2019年10月9日に書かれました。