漆芸の沼

漆器修理師育成


最近はテレビで放送があるたびに
たくさんのお問合せをいただきます

多くは
金継、そして漆器修理のご相談です

お正月が近づく今頃は
重箱や屠蘇器の相談が多いのですが、
漆器修理は納期まで半年以上
かかりますので
今からでは間に合いません

重箱 修理前の画像 漆がはがれている
重箱 修理後 画像


漆器の修理は奥深いというか
底なし沼です

「漆器」と言っても、
産地や時代によって下地や塗りの
素材や技法は様々

素人目には、ウレタン塗装やカシュー
塗りなどの合成樹脂塗装と見分けも
つかない伏魔殿なのです

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ところで、
漆器のもとになる「うるし」ですが、
かなり古くから外国産を使っていた
ことがわかっています

“南蛮漆器”の名で欧州への輸出が盛ん
だった桃山時代は東南アジア産

各藩の産品として漆器の生産が急増す
る江戸時代には、国産漆ではとうてい
足りず、中国や東南アジアから輸入
していました

そして、
1892(明治25)年には、
日本産漆よりも中国から輸入する漆の
量が上回ります
(山本勝巳著『漆百科目』p31)


20代の頃、
弁当箱の塗りを研いでいたら
古い新聞紙が出てきました
日付は昭和21年

表面はオレンジ色の塗に達者な筆致で
簡素な松と鶴が沈金されていました
ホゾ組みから桜井漆器とわかります


漆屋さんにその話をした時
今まででいちばん苦労したのは
長崎国旗事件だと聞きます

長崎国旗事件とは
1958(昭和33)年に起こった日中の
外交問題で、2年半もの間、国交断絶し
貿易は全面停止となります

日清戦争の時ですらゼロにはならなか
った漆液の輸入が、完全に止まって
しまったのです

おりしも、高度経済成長期と呼ばれた
好景気局面、地方から都会への移住で
核家族化した人々が買い手となり、
漆器業界は大忙しです

新聞下地は、そのような時代にも
作られたようです



しかし、
いくら漆が無いからと言って
新聞紙を下地に貼るのは、
現在では考えられないことですが
使い手が丁寧に扱ったためか
50年近くも無事だったのです


新聞下地漆器は、
いったいいくらで売られたのでしょう
そして、
買い手にどのように説明したのか
気になりますね


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戦時中に台湾で作られた漆器を
塗り直してほしいと頼まれました

われた漆皿

ちょっと重たいので木目を見ると
デイゴでした

ご先祖様から伝わったものを次世代に
伝えたいというご要望なので、
割れたこともストーリーとして
生かすことにし、
“見せる”修理をしました

修理後の漆皿 蒔絵


このように木が動いて割れたものは
直してもまた割れる可能性があります

依頼主にそういったことを事前に
伝えられるかは、とても重要です

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若い頃に
知人から重箱の塗り直しを頼まれ
安請け合いしたところ
修理中に他の箇所が割れてきて
モグラたたき状態になったことが
あります

しかも、塗りはカシューでした

カシュー塗りやウレタン塗装などは
長崎国旗事件で漆が手に入らなくなっ
た時に、漆の代替品として開発された
合成樹脂塗料です

ある程度経験が無いと、
合成樹脂塗装と漆塗装を見分けること
はできません

しかし、
合成樹脂には人体に有害な成分や有機
溶剤などが含まれます

カシューだと気付いたときに
とても残念に思いました
最初からわかっていたらお断り
していました

合成塗料で仕上げる商品には
それなりの木地を使います

本漆で修理すべきものなのか、
そういった問題もあるのです

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昭和30年代以降、そうした合成樹脂で
塗られたものが「漆器」として大量に
販売されました

カシューは直接食品を盛り付けない
ことになっていますが、
依頼主はこの重箱におはぎを直接
いれて持参しました

聞けば蚤の市で購入したそうで、
カシューとは知らずに使っていました


現在では家庭用品品質表示法で
漆器と表示できるのは
「表面の塗装全てに天然の漆のみを
 使用したもの」

合成樹脂塗装品は
「合成漆器」となります


修理依頼で持ち込まれたものが
合成漆器だった、ということも
しばしばあります

本漆塗装であれば、部分補修でも
きれいになるのですが、
合成樹脂塗装だとそうはいきません
だから、お断りするのです


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新品を作るのであれば、
同じもの、
似たようなものを作るので
慣れるのですが
修理は同じものは二つとありません

こちらは
「琵琶を塗る」という珍しいご依頼

 毛利さんとおっしゃる
 琵琶職人さんからのご依頼でした

琵琶
琵琶 塗り上がり 完成


かつては
自宅の一室をまるごと
「塗り部屋」にしていたので、
総塗り直しの仕事も受けていました

塗りあがった盆 画像



こちらは大正時代でしょうか
見事な蒔絵の京漆器です

縁の塗装がはがれ
全体に艶もなくなり
使用に耐えられない状態です

蒔絵 椀 京漆器 修理前
蒔絵 椀 京漆器 修理前


剥離部分を埋めて
色合わせをして全体に漆をすりこみ
艶を与えます

蒔絵 京漆器 修理後

このように、
漆の力で貴重な作品が蘇り、
依頼主さんにも喜んでいただける
やりがいある仕事です



しかし、
我々には他にもやりたいことが
たくさんあり
現在、時間のある時しか
こういったお仕事をしていません


平成の途中までは、
福岡にも数名の職人さんがいらした
という話を聞きましたが、
他界され廃業され、
現在はもういらっしゃらないそうです


せっかくの技術と知識なので、
手に職をつけたい方がいらしたら、
ご指導いたします

格好がつくまで2~3年
一人前になるまでは、かなりの時間が
必要ですので、気長にできる方

9月から
「修理師育成枠(仮称)」
として、3名程度募集します

8月中に面接と簡単なテストを実施
しますので、興味のある方は下記へ
お問合せ下さい


火~土曜日 9:00~17:00

でんわ)080-9520-4527
メール)info@nurimatsu.jp

担当:まつおい まさよ